乾ききった3月だ。

羽毛布団の温かさの安心だとか、自分の体温がどんどん外気にさらされていく不安だとか、こんな夜中に鳴りだす例の着信音への苛立ちだとか、それが全部鮮明にあらわれて頭が痛い。 ケータイ越しに俺の耳によく通る声。
「ねえ千尋僕さっきUFO見た!!今すぐ集合!!」「UFOとか勘弁してください……寒いっす」 「千尋たくさん服持ってるだろ!僕のが寒いよ」「……はあ」 「丘あるだろ、あそこにいるから。待ってるから、早く来ないと僕凍死するから、頼むよほんと」
凍死しろ。と、思った。


冬は虫の鳴き声もない。とくべつ風も吹いていない。田舎は死んでる。 ケータイを見たら2時過ぎだった。明日学校あるっけ……明日平日だからあるな。 あ、先輩はもう卒業したから来なくていいのか……くそ、俺が寝不足になって被害こうむるだけか。

そういえば、会うのはいつぶりだろう。

丘の上には、ずいぶんと着こんでる先輩が一人でぼうっと立っていた。
暗闇でたいして目立たなくなった金髪を半分くらいマフラーで隠しながら、俺の方を向くと「早いね千尋」と言う。 遅いね、なら反論できるのに。 この人はこういうところが癪に触るのだ。


「……UFOは」
「おかしーなあ、もうどっか行っちゃったのかも。……あ。千尋、面白くなかったら帰ってくれてもいいよ?」


呆れる人だ。俺が帰らないこともUFOなんてないことも全部知ってるくせに。 白い息を吐き出しただけで、何も言わなかった。


「まあ、とりあえず上見てみなよ。よーくさ」


先輩は笑って言った。空は目をこらすと星だらけで、子どもの頃この星空を観察する宿題があったっけ、と思いだす。 それ以来どこにでもある同じ空に目を向けることなんてしなかった。 いや、普通はそれきりだ。
直感的に、この人と俺とじゃ、この空は同じように見えてないなと思った。 同じように見えてたら、この年になってわざわざ星空を見たりなんてしない。 炭の残り火みたいにくすんでいるのだろうか、信号みたいに色を変えているのだろうか。 そもそもこの人には、この星がホントに見えている?


「僕、都会行くから」

言葉が止まったところで、星が流れた。俺も先輩も、何も言わない。視線も変えないままに、はあ。と生返事を返す。 そのまま星は消えた。


「UFOで?」
「ばかだな千尋。そんなわけないだろ」


笑った顔がやけに輝いてて、それが期待の新星みたいだったから心の底が濁った。 この人に限ってそんなはずはないというのに。 楽しそうな声で言われた「ばかだな」が頭の中に響く、ばかだなばかだなばかだな。
多分先輩は楽しいのだろう。 これから何もかも一人で決めていける、進んだ道が自分の人生になる、なんてよくある言葉を背負って生きていけることが。


「夜行バスでさ、自分で行くんだよ」










銀河




100816/百瀬と千尋の昔の話 ♪銀河(フジファブリック)