彼女は人を殺せるのだろうか。殺したとして、そのあと今と同じように笑顔でいられるのだろうか。ありとあらゆる「もしも」を考えてみたけれど、たぶん、彼女はどの「もしも」もおこさないだろうと思った。だって、俺とは根っこから何かが違うから。こんな屈託のない表情、こいつにしかできないんだろうな。
…何ばかなこと考えてるんだろう、と苦笑いした。


「橘くん、あのね、白鳥くんがポンカンくれたから一緒に食べよう!」


ちなみに今のコトバを俺なりに解釈すると、「橘くん、あのね、白鳥くんが橘くれたから一緒に(以下略)」だ。 わかってる。どうせ俺のことバカにするために、今目の前にいるこいつを使ったんだ。とりあえず後で白鳥は二度殺す。
彼女は知っててポンカン食べようとか言ってるのかな?そこらへん明確にしとくべきだよねそうだよね。意図的だったら泣かせる…。

「ねえ」
「ん?なあに?」
「ポンカンは和名で言うと」
「ふぬうう……わかんないよう。橘くんそんな難しいこと知ってるんだね!すごい!!」

意図的どころか俺に関心してるあたりこいつは多分バカなんだ。笑涙とは違うバカだよね、これ。…だめ。だめだ。俺、こいつのことすこぶる苦手かもしれない。それも雷とおんなじくらい。言い返す言葉も、新しい言葉も、見当たらなくなってしまう。
それでも彼女はにこにこと笑顔をふりまくだけで、この顔は多分俺が今何を考えてるのかなんて知らないんだろうな。仕方なく無言でポンカンを食べた。

「ほひひひへ!はほへひはほひふんひほへいひはふは」
「なに言ってるの」

詰め込み過ぎてふくらんだ頬が笑涙みたいで、表情がゆるむ。まあ、笑涙はこういうの、冗談じゃないくらいにつめこんでやけに達成感のある顔して一人で満足してるんだけど。それで気づいたら机の上はからっぽの皿しかなくなってるんだ。
……あ、こいつもおんなじだ。彼女はいつのまにか皿の上にあったポンカンを半分以上たいらげていた。

しばらく七夕希を観察してたら、俺を覗きこみながら彼女は心配そうに言う。

「お、おいしい?」
「…うん」
「ほんとう!?」

味的にまずくはないけど、白鳥がくれたなんてひどく吐き気がする。言わないけど。
どうせこのポンカンも、俺のことバカにするのが目的で七夕希にあげたんだろうな。彼女は何も気付いてないみたいだけど。

ホントだったら俺、ここで机ひっくり返して皿割って今すぐ白鳥殺しに行く場面なんだよ。彼女が泣くからやってないだけ。今前に座ってるのが笑涙だったら、笑涙も殺してるよ。白鳥も彼女のことは大事みたいだし、今は何もしないであげる。こんなに優しんだから、白鳥は俺に土下座してもいいんじゃないかな。


「また今度、白鳥くんにお礼しなくちゃね!」


うん。あとで俺が殺しとくよ。
……まあ、彼女も喜んでるみたいだし、やっぱり半殺しで許そうかな。





(100516/リメイクしようとして結局そのまんま)