自転車が風に逆らってスピードをあげた。補習帰りでくたくたな体に鞭を入れてペダルを漕ぎ続ける。いつもは電車通学だから自転車を持ってない橘は律の後ろに乗ってる。
「あっちー!死ぬ!」
ものすごく元気な声で律は叫んだ。高校生は大抵こういう簡単な言葉を繰り返して空白の時間を埋めてゆく。やばい死ぬ最悪最低!大げさな比喩ってよく言うだろ、僕ら大げさに喋るから、きっとほんとの訴えも流されるんだろうなあ、って思った。いくらこいつらって言っても、隠しごとも当たり前だし知らないことの方がきっと多いよ、そういう関係が一番いいけど。
「あーくそ!海見えねーよ!」
「律うるさいわね〜もうちょっと楽しんだらどう?」
「んなこと言ったって後ろが重いんだよ…」
「橘ー律が走れだってさ」
橘は何事もないような表情で律の背中を見る。律はそのまま頭を後ろに立ち乗りしている橘に勢いよくぶつけて、二人とも自転車ごとよろけた。「安全運転しろ」「あ〜ムカツク!橘お前帰りは漕ぐ係だからな」「帰りは百瀬の後ろ乗るし」僕の後ろは勘弁しろよ…そんな体力ないからさあ。
潮のにおいのする風が髪をさらう。僕の髪はすでに傷んでるっていうのにこの砂と湿気の混じった潮風はひどいな。きっと明日の制服は潮くさいだろう。ちょ、メグ髪乱れるからって両手離すなよ!!
「ちょメグ危ないよ」
「だいじょーぶっ」
「せめて片手だけでもハンドル…うわああーっ」
目を離したせいでゆるやかなカーブを曲がり損ねて自転車は蛇行したのち転倒。馬鹿かよ!自分がこけてどーすんだよ!自分よりもまずは通学に不可欠な自転車の心配をして起こし上げる。よかったキズはない。百瀬だいじょーぶう?と笑いながら言うメグに、膝を叩きながら間抜けな声で返事する。あーほんと風強いな…二人乗りしてる奴らは大丈夫なのかなってアレ
「律お前…橘は??」
「お前の自転車ー」
「エッ!?」
振り向いてみるけどそこには何もなくて、前を見たら僕の自転車に勝手に橘が乗っててしかもだいぶ遠くにいた。待てコラ!!必死で追いかけるけどたとえ両方自転車なしで走ってたって橘には追いつけないのを僕は知ってた、知ってるのになんでこんなに必死で走ってるんだろう。夏だから?ずいぶんお気楽な答えだ。でもそれでいいのかもしれない。くそ…自転車貸した代金として、あとでアイスとジュースおごらせるからな。
橘の代わりに僕が乗った自転車を律はまた必死に漕いで、僕は笑いながらごめんと言った。やっと見えた海には波打ちぎわを裸足で歩く橘しかいなくて、僕ら4人で貸し切り状態だ。律は自転車を乗り捨てて砂浜を駆けて、靴も脱がずに海へ走り出す。メグは「あ〜あマッチョにナンパされたかったなあ」なんて呟きながら砂浜を蹴る。僕は白い砂の上に倒れこむ。ぐしゃぐしゃになった髪の毛。太陽がぎらぎら光る。波の音と笑い声。夏夏夏!
インディゴ地平線
100823/4人で学パロ ♪インディゴ地平線(スピッツ)