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祭りはもうすぐ終わる。
メグは足早に帰ってしまったから、僕は手伝いに追われている律を、人の少ないさびれた通りの壁にもたれて座って待っていた。
あっというまに時間は過ぎるみたいだ。花火が打ち上がるのを僕はぼーっと見つめる。
いきなり頬に冷たいものが当たって、驚いて僕は隣に目を向けた。そこには律が笑って立っていた。 「わりー、遅くなった!」 「律おつかれ!」 僕の頬に当てられたのはラムネの瓶だった。二人ぶんあるそれを1つ貰って、飲んだ。 刺激が目の裏側にまで広がる。久しぶりにビー玉を間近で見つめた。 ついさっきまで忙しそうに走り回っていた律を思い出す。 来年は僕も手伝わせてよ、と冗談混じりで言ったら本気で律はOKしてくれた。 最初メグと二人でまわってたとき彼は屋台の手伝いをしていたからTシャツ姿で、次に見たときは花火の手伝いの姿、今は黒い浴衣に身を包んでいる。珍しく大人びた格好だ。普段一緒にいる女子が見たら何て言うんだろうな。僕から見ても律は浴衣が似合っていた。 「律はすごいなあ」 思わず口からでた言葉に少し後悔する。律は笑って、なんともないそぶりで「サンキュ」と言った。その言葉が僕には意外だった。いつもならこんなことでいちいち褒めんなよ、って素直に受けとめないから。きっと見えないところで頑張ってたんだろう。お前はほんとにすごいよ。 空は大きな枝垂れ花火でいっぱいになる。祭のにおいが僕の鼻をおかしくさせて、感傷に浸る暇もない。この人混みの雑音さえも心地いいと思った。僕らはしばらく黙っていた。 「橘なにしてんだろ」 「彼女と来てんじゃねーの」 「裏切ったなあいつ!夏祭りはいつも男だけで行ってたのに」 「じゃあ電話してみろって。彼女ほっといて来るぜ?多分」 電話したあと、橘はほんとにすぐに一人できた。律と二人で笑ったら「なに笑ってんの」って機嫌悪そうな顔されたから、別にと言って律は屋台の手伝いで貰ったらしい大量のイカ焼きやらリンゴ飴やらベビーカステラを全部橘に渡した。(橘は初めて心からありがとうと律に言ってた気がする) 「トリを飾る最後の花火です、本日は泉坂祭りへお越しいただきありがとうございました。それではまた来年!」拍子抜けたアナウンスで、最後の花火が終わった。 空はまた静寂を取り戻す。人混みが同じ方向に流れていく。帰ろっか。僕らは重い腰をあげて、のろのろと並んで歩きだした。 「僕らこうしていつまでいれるのかな」 「来年も変わらないよ」 橘はいつも通りの調子で言ってみせた。僕が考えすぎてんのかな。僕が変わらないでいたいことを、たぶん橘はわかってるのだ。さっきからタコ焼きとかから揚げとか食べてばっかのくせして、だ。さっきから喋らない律もきっとそうなんだろう。 ねえこんな夏をいつか懐かしいなんて笑い合う日がくるのかな。僕はいつもと変わらない人たちに囲まれて来年までいたい。普遍的で変わらない夏の終わりがいい。お前らもそうだろ。そうじゃないかもしれないけどさ、そう思わせてて。 ふと思い出した曲と今の気持ちがぴったりで、僕は地面を踏みしめる足に力を入れた。 まつりのあと 100814/3人のいるところはいつも現代! ♪夏草の揺れる丘/THE BACK HORN |